ミカンの枝葉を灰にして作る「みかん灰釉」を使って焼き上げる作品など、透明感のある器を生み出している陶芸家の鈴木隆さんにお話を伺いました。
【1】工芸の道を志したきっかけやご自身の背景、工房の歴史や成り立ちについて
小田原を拠点に活動を続ける陶芸家の鈴木隆さんは、物心ついた時からものづくりや芸術への興味や関心はあったものの、地元の老舗書店に就職します。しかしその後、独学で始めた作陶への熱量が高まり、会社を辞め本格的に陶芸家としてのキャリアをスタートさせました。
「師も無く伝も無く独学で潜り込んだ陶芸の世界。思い通りに焼き上がらず悔しい思いをするばかりですが、そんな拙作を喜んで手に取ってくれる方がいることが何よりのモチベーションです。学生時代に遺跡の発掘のアルバイトをしていましたが、何千年も前に生きていた人が作った土器がそのままの形で出土していました。私にとって焼き物を作るという行為は、自分がこの時代に生きていた痕跡を残したいということなのかもしれないですね」と語ります。
【2】自らの五感を刺激するために取り組んでいることや意識していること
鈴木さんは、仕事に直接は関係ない物事であっても、気になることは積極的に見て、聞いて、感じるようにしているそうです。
「生まれてから現在まで五感から吸収してきた経験や感情の蓄積が今の自分を形作っています。例えば、好きな音楽を聴く、楽器を演奏する、料理、散歩、畑仕事、読書、車の運転などは、単純な日課の場合もありますが、気分を高揚させたり、逆に落ち着かせたり、現実逃避の方法でもあります。ものづくりを仕事としている身として1番大切なことは、いつまでも好奇心を失わずに、少しでも新しい経験を積むことだと思います」
毎日の日課でも視点を変えてみたり、自然の中に身を置いたりすることで五感に刺激が得られ、その感性が投影されることで作品が生まれるのです。
【3】作品制作で大切にしていることやこだわり、作品を通じて伝えたいことや叶えたいこと
鈴木隆さんの工房「橙」では、土や釉薬の新しい原料や配合を変えるテストを常に行い、研究を続けています。その中で生まれた作品の1つに、鈴木さんの地元、神奈川県小田原市の名産であるミカンの枝葉を灰にして作る「みかん灰釉」を使って焼き上げる器があります。灰や土に含まれる成分によって、特徴的な透明感のある水色がうまれます。見るだけでも美しいみかん灰釉の器は、鮮やかなお料理との相性が良いだけではなく、生地に生成り色が含まれるため、繊細な和食をも上品に引き立てます。
ほかにも、小田原の海を連想させるような艶やかな青が美しい貫入青瓷など、多彩な青瓷釉の作品も作陶しています。
「私の作る器は静と動に分けるとすれば、静の方に当てはまります。器が使われる場所や空間、そして使う方達が平穏でありますように」という願いが作品には込められています。
【4】伝統技術や文化の継承のために挑戦していることやこれから挑戦したいこと
鈴木さんは独学で陶芸を学んだため、受け継ぐべき師匠からの技や、産地の伝統技術を持ってはいないといいますが、作品の多くは日本古来の技法で作られているので、間接的に伝統を受け継いでいるともいえるのかもしれません。
「文化というものは違うものが混ざり合い、刺激し合ってその時代を反映しながら少しずつ変化していくものです。技術の進歩やインターネットの普及に伴い、今までの常識が物凄い速さで更新される現在では、ものづくりの現場もそれらから良くも悪くも大きな影響を受けているはずです。また、日本の食文化や、茶道、華道、書道などの文化も大きな転換期を迎えているように感じます。このような時代だからこそ、自分なりに伝統文化をより深く見つめ直し、今の時代を反映させたものづくりができればと思っています」
時代の変化を感じ取り、吸収し、今だからこそ表現できる器づくりを追求する鈴木さんの作品は、人々の生活に美しい瞬間を刻んでいます。
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