香川漆器の伝統技法を引き継ぎながら、普段使いのカジュアルな漆器を作っている川口屋漆器店の佐々木康之さんにお話を伺いました。
【1】工芸の道を志したきっかけやご自身の背景、工房の歴史や成り立ちについて
香川県さぬき市長尾にある川口屋漆器店は、初代である祖父の佐々木宗雄さんが1946年に創業した漆器工房です。香川県の漆器は1976年に国の伝統工芸品に指定されましたが、バブル崩壊後のライフスタイルの変化で漆器の需要が減少し、売り上げはピーク時の1/5まで減少します。3代目の佐々木康之さんは、そんな現状を変えていこうと2000年に家業に入りました。
「祖父や父が続けてきたことを途切れさせたくないという思いがあり、大学卒業後はすぐに香川に戻り、家業を継ぐことを決めていました。今のライフスタイルにあった商品開発をはじめたのは、自分と同世代の若い人にも『カッコいい』と思って使ってもらえるものを作りたかったからです。そうしないと自分たち自身も漆器店を続けていけない、という危機感もありました」
2016年には、オリジナルブランド『87.5(ハチジュウナナテンゴ)』を立ち上げ、香川漆器という伝統を忠実に受け継ぎながらも、今の生活に合う漆器の製作をスタートさせます。ブランド名は、工房の場所が四国88ヶ所巡りの87から88番への道中にあることから名付けたのだそう。佐々木さんの「香川漆器を全国の人に知ってもらいたい」という思いが込められています。
【2】自らの五感を刺激するために取り組んでいることや意識していること
自分と同世代の30~40代の人にこそ漆器を使ってほしいと考えている佐々木さんは、若い世代のリビング風景をリサーチするために、ファッション雑誌やインテリア雑誌をよく見るようにしているといいます。
「東京の雑貨屋さんを巡ることもあるし、テーブルウェアの展示会に1〜2ヶ月に1回は参加します。自身の感性が凝り固まらないように、好みとは違うテイストのものをみることもあります。さまざまな作品や情報から刺激を受けることが、ものづくりへのモチベーションになっています」
漆器とファッションには共通した感覚があると佐々木さんはいいます。「毎日のコーディネートでいろんな服を選ぶように、テーブルウェアもファッションのように取り替えて楽しむことができる」のだと。テーブルウェアの着替えの1つに漆器を選ぶ人が増えてくれるように、今のファッション感覚や時代の空気感をリサーチし続けているのです。
【3】作品制作で大切にしていることやこだわり、作品を通じて伝えたいことや叶えたいこと
87.5のコンセプトは『日々のくらしの中で、幸せを感じられる道具。』です。目にも楽しい色鮮やかなカップやボウルは、独楽塗という香川漆器の伝統技法から着想を得て作られたものです。独自に開発したカラーリングを施すことでカジュアルな印象になり、日常のテーブルを華やかに彩ってくれます。
「漆器は扱いが難しい器ではなく、軽くて割れない普段使いに適した器です。『漆器を使うと料理がひと味違うような気がする』という人もいます。木のぬくもりや口触りのやさしさなど、使ってみたら漆器のイメージが変わるはずです」
「製作したいのは使う人が本当に欲しいもの」だという佐々木さんが作る、日常使いのカトラリーから試してみるのもよさそうです。
【4】伝統技術や文化の継承のために挑戦していることやこれから挑戦したいこと
佐々木さんは、若い世代でも漆器づくりに携わりたいと考えて技術を学ぶ人はいるものの、その先の受け皿が少ないことを危惧しています。
「漆器業界全体が絶滅危惧種になってきています。伝統技術や文化の継承のためには、この仕事に就いて安定した収入が得られる道筋や、後継者の人材育成が不可欠です。少しずつでもそのチカラになれればと、若い職人を育てる環境づくりを進めています」
何気なく開いたファッション雑誌のページに87.5の漆器が載っている、そんな日常を実現すべく、漆器に関わる人を支えながら、その魅力を発信していきたいと佐々木さんは語ります。
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