いつかの景色や海風の音、感じたままを器に紡いで #一翠窯 高畑伸也さん

明るくカラフルな色使いに独創的なラインや紋様など、独自の豊かな感性で作陶を続ける、一翠窯の高畑伸也さんにお話を伺いました。

 

【1】工芸の道を志したきっかけやご自身の背景、工房の歴史や成り立ちについて
沖縄県の読谷村にある一翠窯は、海辺から道を隔ててすぐの場所にあります。ときおり潮の香りが漂うという
工房で、高畑伸也さんは土と窯の火に向き合い、器づくりを続けています。
 
高畑さんは若者の頃、言葉では表せない何かを感じたいとインドやネパールなどの東南アジアへ放浪の旅に出ます。航路の途中で立ち寄った沖縄で、都会とは違うゆるやかな時間の流れに触れ、自分の肌に合うと直感し、やがて沖縄に暮らし始めます。
 
「コーヒーを出すお店をするのもいいなと思って、おいしく飲める器を探しているうちに、釉薬をかけず土の色や手触りをそのままいかしたカップが気に入ったのです。それが手作りの器との出会いでした」
 
そして、自分でも作ってみようと伝統的なやちむんの工房に飛び込みます。ところが直面したのは、あまりに過酷な修行の毎日でした。もうやめて帰ろうと思い立った日に、大型台風が来て動けなくなり、そのままとどまることに。無心で窯と向き合う日々を送る中で、やがて土と火を使って器を作る、という縄文時代から変わらないプリミティブな手仕事にのめりこんでいくことになりました。
 


【2】自らの五感を刺激するために取り組んでいることや意識していること

いつかの景色や海風の音、感じたままを器に紡いで #一翠窯 高畑伸也さん


ハッピーで明るい気持ちを感じてほしい、という高畑さんの作品は、カラフルな色使いや大胆なライン、繊細な文様など、さまざまなデザインであふれています。伝統的なやちむんとは違った表情をもつ器たちですが、それらはどのようにして生まれるのでしょうか。
 
「今までの旅の思い出や音楽など、生きてきたすべての体験が自分の中に栄養分として存在しています」
 
過去の体験を書き留めたメモやスケッチ、写真などをストック。いつも頭の片隅にあるというそれらが、時間をかけて作用しあい自然と結びつくようにして、新たな作品のイメージが出来上がります。模様のデザインはできていても、器の立体感との組み合わせに試行錯誤し、作品になるまで長い年月を要することも度々あるそうです。


 
【3】作品制作で大切にしていることやこだわり、作品を通じて伝えたいことや叶えたいこと

いつかの景色や海風の音、感じたままを器に紡いで #一翠窯 高畑伸也さん


高畑さんは、器の使いやすさを追求することよりも、そこに心に響く創造的な要素をいかに表現できるかが、自分の仕事だといいます。器えらびのときには、器の中にちりばめられた色や形、モチーフの豊かさに、心躍るような楽しさが味わえるはずです。
 
「疲れて帰ってきたときに、お気に入りの器でお茶を飲む。それがほっとする幸せなひとときだと感じてほしい。料理をのせる器としてだけでなく小物をのせたっていい。自分の好きなように使って楽しんでほしいのです」
 
高畑さんが作る楽しさや幸せを感じる器たちは「伝統や形式にこだわるのではなく、常に感覚をアップデートし自由に変化していきたい」という軽やかな感覚から生まれてくるのです。
 


【4】伝統技術や文化の継承のために挑戦していることやこれから挑戦したいこと
高畑さんが陶芸を習ったのは、伝統的な壺屋焼の工房であったため、作品作りには伝統技術が基本的なベースにあるとしながらも「伝統技術や文化を守るとか継承することよりは、それを発展させられたらいいと思っています」と語ります。手にすれば心を自由に解き放てる、そんな沖縄の器が新しく生み出されていくのです。

 

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