人との出会いは自らを進化させ伝統工芸の未来を拓く #楽芸工房 村田紘平さん

京都の西陣織の引箔技術を受け継ぎながら、現代の生活に合う作品づくりを続ける、楽芸工房の村田紘平さんにお話を伺いました。

 


 
【1】工芸の道を志したきっかけやご自身の背景、工房の歴史や成り立ちについて

人との出会いは自らを進化させ伝統工芸の未来を拓く  #楽芸工房 村田紘平さん

西陣織の糸の素材となる引箔を作るのは、経済産業大臣指定伝統的工芸品 西陣織の伝統工芸士、楽芸工房の村田紘平さん。300年以上前に開発されたと言われるこの引箔による箔を織り込む技術を、今もなお支え守り続ける楽芸工房は、京都・西陣で箔屋としての歴史を重ねてきた村田商店の直営工房・意匠部として平成元年に創業しました。
 
三代目となる村田さんは、大学を卒業したのち、ファッション産業の構造や流れ、特に流通部門についての基礎知識を学ぶため、アパレル関係の仕事に就いた後、家業である西陣織産業の世界に入ります。
 
「西陣織産業を取り巻く厳しい環境の中で、引箔の技術を世界に発信しようと新しい挑戦をする父の影響で、私も新しい分野での可能性を探していました。伝統的な方法で製造される西陣織の帯は、20以上の製造工程があり、それぞれ高度な技術を有する職人の手によって完成します。その技術の継承とともに、長い時間をかけて受け継がれた工芸の本質的な思想をも伝えていく、それが箔屋として貢献できることだと思っています」
 
楽芸工房は、伝統工芸を軸に、アートやデザイン、インテリアやファッションなどの幅広いジャンルと接点をつくりながら、現代生活に即した作品を創造し、国内外のマーケットに向けて革新的なデザインを提案しています。
 

 

【2】自らの五感を刺激するために取り組んでいることや意識していること
村田さんは、同じ伝統産業に携わる様々な分野の職人のものづくりや、アート、デザイン、インテリア、ファッションなど出来るだけ多くの作品に触れることをモットーとしています。
 
「西陣織に代表されるような“美”を上位概念とすることを宿命付けられた伝統工芸の世界において、固定観念に縛られない、自由で柔軟な発想こそが未来を築いていくと考えています。様々な分野の人との出会いは、自分を進化させ、新しいことに挑戦する力を与えてくれます」
 
工芸を中心に据えながら、幅広い分野と接点をつくることで、自身のものづくりの本来の価値やこれからの豊かさの意味を探し続けているのだそうです。
 


【3】作品制作で大切にしていることやこだわり、作品を通じて伝えたいことや叶えたいこと

人との出会いは自らを進化させ伝統工芸の未来を拓く  #楽芸工房 村田紘平さん


引箔は古来より西陣織の中でも高級品に用いられてきた材料の一つで、織物の織柄を豪華絢爛に引き立て、立体感をもたせるための技法のことです。漆などで色彩した和紙に金銀箔などで模様をつけた原紙をつくり、裁断専門の切屋で糸のように細く断裁します。引箔は糸と違い表裏があり、1本ずつヘラに引っ掛け、引っ張ることにより経糸の間を通します。この動作から引箔という名が生まれたそうです。箔の最大の特徴は光源や見る角度によって全く違う表情になるという点です。
 
「奥行きや立体感を出すために5層にまで柄を重ねていく『五色金重ね』は、親子三代に渡って引き継いできた代表的な引箔の1つです。素材が変わりテクノロジーが進化しても、工芸の真髄である製作過程には、伝承されてきた技術とともに先人たちの想いが宿り続けていると思います」
 
昔から受け継がれてきた伝統技術と新しいデザインの融合は、新しい価値観を生み出します。「人の美意識が更新され、それが次の伝統をつくることになる」と村田さんは語ります。


 
【4】伝統技術や文化の継承のために挑戦していることやこれから挑戦したいこと

人との出会いは自らを進化させ伝統工芸の未来を拓く  #楽芸工房 村田紘平さん


村田さんは、西陣織の素材となる引箔の技術を応用し、アート作品など異なる分野のものづくりにも挑戦しています。その1つが箸の制作です。 先代から引き継いだ貴重な箔や五色金重ねの技法などを応用して制作される箸は、食卓という日常の中に美しさをもたらしてくれます。
 
「今、私にできるのは、着物文化を守りながら西陣織の魅力も伝えていくことです。自分の挑戦が新しい伝統となり、産地全体の活性化につながればいいなと考えています」
 
村田さんは自由で柔軟な発想で引箔の可能性を広げ、伝統工芸の未来を築き続けています。
 

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