沖縄で出会う植物のイメージを再構築してデザインに #井口工房 井口春治さん

盛りつける料理を引き立たせる、薄手でシンプルなやちむんを作っている井口工房の井口春治さんにお話を伺いました。
 


【1】工芸の道を志したきっかけやご自身の背景、工房の歴史や成り立ちについて
沖縄の読谷村にある井口工房の作品は、陶芸家の井口春治さんが生み出す、シンプルで研ぎ澄まされたやちむんに目を奪われます。
 
子供の頃から絵を描くのが好きだったという井口さんは、高校ではデザイン科に進学し、当初はグラフィックデザインを学ぶため、大学もデザイン科を志望していました。受験準備中に、のちの師となる大嶺實清さんの作品に出会ったことが、進路を変えて陶芸の道に進むきっかけとなりました。
 
「沖縄といえば、壺屋焼きに代表される装飾が多く飾り物のような焼き物や絵柄が多い中で、師が作るシンプルさや色使いもありなのかと、その自由さに衝撃を受けました。そのインパクトから、大学の志望先をデザイン科から陶芸科へと変更したのです」
 
伝統を継承すべく陶芸家を目指したのではなく、グラフィックデザインの道からシフトチェンジしたという経歴に、独自のやちむんを追求したい、という思いの強さが感じられます。

 

【2】自らの五感を刺激するために取り組んでいることや意識していること

沖縄で出会う植物のイメージを再構築してデザインに #井口工房 井口春治さん


井口さんは沖縄の植物がデザインソースになることが多く、沖縄本島のやんばるの森を歩いたり、植物園を訪れたりして、新しい植物を発見することが楽しみなのだそうです。
 
「窓の外の花や植物、隣の生け垣を見ても、すべてがいつしかデザインにつながっていくのです」
 
井口さんが描くハイビスカスの花は、まるではじめて出会った花のようなインパクトを与えます。それは、見たままを模写するのではなく、井口さんの頭の中で花の形が再構築され、新たなデザインとして生み出されるからなのです。
 

 

【3】作品制作で大切にしていることやこだわり、作品を通じて伝えたいことや叶えたいこと

沖縄で出会う植物のイメージを再構築してデザインに #井口工房 井口春治さん


井口さんが、器を広げる舞台として強く意識しているのが「食卓」です。生きるうえで欠かせない食と器は切り離せない存在だと考えます。そのこだわりは、記憶をさかのぼると高校時代の飲食アルバイトのときから持っていたのだとか。
 
「器に料理を盛り付けながら、料理の邪魔をしないで綺麗に見えるお皿をデザインするのも良いなと思う自分がいたのです」
 
井口さんの器づくりは『料理が映える器』であること、そして茶碗などの手に持つ器は、極力薄くして『軽くて持ちやすい器であること』に気持ちを注いでいます。そこには料理をつくる人を喜ばせたい、食べていて心地が良いと感じてほしいという、器の使い手への思いやりがあふれています。
 
ともに工房で制作をする妻の悠以さんもまた、料理を作って食べることが趣味で、沖縄に住む以前は、自分の料理を盛りつける器を求めて全国を旅したのだそうです。
 
「主役が食事で脇役がお皿でありたいと思っています。生活の基本として食事に勝るものはないので、楽しく盛りつけたり食べたりしてほしいのです(悠以さん)」
 
代表作の1つである「O紋」は、フリーハンドでリズミカルに描く紋様が印象的で、筆運びの勢いや色の濃淡に1つ1つ違った表情があります。すべての紋様がきっちりとそろっていないことが、手仕事の器の面白さだと井口さんは語ります。沖縄らしいコバルトブルーの色を引き立てるには、釉薬の濃度をぎりぎりまで高める必要があり、納得のいく仕上がりになるまでに何度も調整を重ねたそうです。
一方で器の形は、使う用途に合わせて均一に整えることに注力して製作されています。どれも異なる絵付けの味わいと、整然とそろった器の形という駆け引きこそ、食卓が似合う井口さんのシンプルな器の魅力だと言えます。
 

 

【4】伝統技術や文化の継承のために挑戦していることやこれから挑戦したいこと
今後は「自分なりのシーサーを製作していきたいと思っています」と井口さんは語ります。井口さんが作るシーサーは、ユーモアのある表情がひとつひとつ異なっていて、見る人をほっこりと明るい気持ちにさせてくれます。
洗練された薄い器の凛とした美しさと、土の温かみを感じる素朴なシーサーと。井口さんの幅広い感性は、食卓を囲む人たちにたくさんの福をもたらしてくれそうです。
 
 

 

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