うつわと一緒に心を解き放とう #一翠窯 高畑伸也さん

土と火と自分。無心になれる瞬間こそが面白さ

沖縄県の読谷村にある一翠窯は、海辺から道を隔ててすぐの場所にあります。ときおり潮の香りが漂うという

工房で、高畑伸也さんは土と窯の火に向き合い、器づくりを続けています。

 

『一翠窯』という名前の由来は「いっすい、という音の響きがいいなあと思って」名づけられたそうです。名前には漢字や語句の意味がたいそう盛り込まれているはず、という固定観念がさらりとかわされた瞬間。その軽やかな感覚は「伝統や形式にこだわるのではなく、つねに変化し自由でありたい」という高畑さんの作品への向き合い方にも通じています。

 

高畑さんは若者の頃、言葉では表せない何かを感じたいとインドやネパールなどの東南アジアへ放浪の旅に出ます。航路の途中で立ち寄った沖縄で、都会とは違うゆるやかな時間の流れに触れ、自分の肌に合うと直感し、やがて沖縄に暮らし始めます。

 

「コーヒーを出すお店をするのもいいなと思って、おいしく飲める器を探しているうちに、釉薬をかけず土の色や手触りをそのままいかしたカップが気に入ったのです。それが手作りの器との出会いでした」

 

そして、自分でも作ってみようと伝統的なやちむんの工房に飛び込みます。ところが直面したのは、あまりに過酷な修行の毎日でした。もうやめて帰ろうと思い立った日に、大型台風が来て動けなくなり、そのままとどまることに。無心で窯と向き合う日々を送る中で、やがて土と火を使って器を作る、という縄文時代から変わらないプリミティブな手仕事にのめりこんでいくことになりました。

 

 

うつわと一緒に心を解き放とう #一翠窯 高畑伸也さん

 

 

いつかの景色や海風の音、感じたままを紡いで器に

ハッピーで明るい気持ちを感じてほしい、という高畑さんの作品は、カラフルな色使いや大胆なライン、繊細な文様など、さまざまなデザインであふれています。伝統的なやちむんとは違った表情をもつ器たちですが、それらはどのようにして生まれるのでしょうか。

 

「旅の思い出や音楽など、今まで生きてきたすべての体験が自分の中に栄養分として存在しています」

 

過去の体験を書き留めたメモやスケッチ、写真などをストック。いつも頭の片隅にあるというそれらが、時間をかけて作用しあい自然と結びつくようにして、新たな作品のイメージが出来上がります。模様のデザインはできていても、器の立体感との組み合わせに試行錯誤し、作品になるまで長い年月を要することも度々あるとか。そして、完成したデザインにとどまることなく、常に感覚をアップデートし変化していきたい、と語ります。

 

うつわと一緒に心を解き放とう #一翠窯 高畑伸也さん

 

 

器との向き合い方は自由でいい。器と一緒に心を解き放とう

高畑さんは、器の使いやすさを追求することよりも、そこに心に響く創造的な要素をいかに表現できるかが、自分の仕事だといいます。器の中にちりばめられた色や形、モチーフの豊かさに、器えらびの心躍るような楽しさが味わえるはずです。

 

「疲れて帰ってきたときに、お気に入りの器でお茶を飲む。それがほっとする幸せなひとときだと感じてほしい。料理をのせる器としてだけでなく小物をのせたっていい。自分の好きなように使って楽しんでほしいのです」

 

毎日がせわしなく不安が多い今だからこそ、高畑さんのやさしい願いがつまった器たちに触れて、あなたも心を自由に解き放ってみませんか。

 

 

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